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June 01, 2008

植松三十里『群青〜日本海軍の礎を築いた男〜』&サイン会

作家で東京龍馬会の会員でもある植松三十里さんの書き下ろし歴史小説が、文藝春秋から刊行されました。平成20年6月7日には、歴史時代書房「時代屋」神田小川町店にて、『群青』をはじめとする植松さんの著書のサイン会が開催されますので、あわせてご紹介いたします。

植松三十里『群青〜日本海軍の礎を築いた男〜』&サイン会
【内容紹介】
幕府海軍の設立から、その終焉まで立ち会った男、矢田堀景蔵。幕府学問所で秀才と言われた景蔵は、アヘン戦争の波及を恐れた幕府の命により、長崎の海軍伝習所に赴任した。そこでは勝海舟、榎本武揚、永井尚志等その後の幕府の浮沈を共にする仲間とともに、西洋の新知識を貪欲に身に付けていきます。勝ほど名前は知られていない人物ではありますが、矢田堀が成した事績は劣るものではありません。気鋭の作家の書き下ろし作品です。
植松三十里さんのブログ「松の間の床の間」より】

「歴史に埋もれた海軍総裁」(5月11日付)
新刊『群青』が明後日、5月13日に発売になる。
その主人公、矢田堀景蔵(写真)について、取材した経緯などを書いておこうと思う。
徳川家の海軍総裁までつとめた人物だが、ほとんど知られていない。
幕府海軍というと勝海舟や榎本武揚が、あまりに有名だ。
だが幕府崩壊時、勝は陸軍総裁、榎本は海軍の副総裁だった。
彼らと同役ながら、なぜに矢田堀は、これほど歴史の中に埋もれてしまったのか。
その謎が、この人物を調べ始めたきっかけだった。

墓が早稲田鶴巻町の宗源寺に現存する。
初めて墓参した時、香華を手向けて立ち上がり、ふと墓石の側面を見た。
そこには「俗名 矢田堀鴻」と書いてあった。
「鴻」が矢田堀景蔵の明治以降の名であることは、その時すでに知っていた。
だが、その文字を見た時に、ひとつの故事成語が頭に浮かんだ。
「燕雀いずくんぞ鴻鵠の志を知らんや」
なるほど、この言葉から一文字取って「鴻」と名乗ったのだなと、初めて気づいた。
だが、その意味を考えてぎょっとし、すぐに帰宅して、改名の時期を調べた。
それは明治5年。矢田堀が新政府に出仕した年だった。
新政府に自分の志を理解されなかった苛立ちを、みずからの名前に込めたのだ。
では、その志とは何なのか。謎がさらに深まった。

明治元年から5年まで、沼津で新しい洋式兵学校開校に関わったことを知り、沼津に取材に行ったのが2000年。
それ以前から調べていたのだから、矢田堀に関わり始めて、かれこれ10年になる。
その時、沼津に行ってみて初めて、沼津市明治史料館という博物館を知った。
さっそく訪れてみると、ここに矢田堀の唯一といっていい原史料が存在した。
矢田堀が明治5年から1年間だけつけた日記と、自筆の家族書き、そして正七位の授章書。
どれもご子孫が寄贈したものだという。

そのご子孫を仮にK氏と呼ぼう。
私は沼津市明治史料館で、K氏の連絡先を教えていただいて、会いに行った。
いかにも旗本の末裔らしく、上品な物腰の方だったが、K氏の御父上、つまり矢田堀の孫に当たる方は、子供の頃から奉公に出されて苦労なさったという。
矢田堀の子の代で、没落士族となっていたのだ。
だがK氏の御父上は才覚のある人だったらしく、事業を興し、成功を収めた。
ただ教育を受けられなかっただけに、海軍総裁の孫であることが、唯一の心のよりどころだったという。
矢田堀の日記などの史料が、戦災で焼けずにすんだのは、空襲の際、御父上が何を差し置いても持って逃げたからだろうと、K氏は推測される。

K氏が子供の頃、ご自宅には矢田堀景蔵の写真もあったが、戦災で失われたという。
それから長い年月が経ち、K氏はたまたま沼津に出かけ、明治史料館の前を通った。
何かご先祖に関わることでもあるかと、ふと立ちよってみたところ、消失したはずの写真と同じものが展示されていて驚愕したという。
そこでK氏は、史料はご自身で持っているよりもと、明治史料館に寄贈されたのだ。

史料の寄贈は偶然の結果だったが、私もたまたま沼津で明治史料館をみつけて訪れた。
偶然が重なって、私は矢田堀の史料にたどり着いたのだ。
何かに導かれるようで、少し気味が悪いくらいだが、歴史を調べている人は、だれでもときどき、こういう偶然を経験するようで、これを「史料に呼ばれる」と表現する。

K氏の記憶によると、矢田堀の伝記も、ご自宅にあったという。
子供心にも立派な本だったそうだが、いくら調べても、今までに矢田堀の伝記が出版された形跡はない。
不当なまでに省みられない人物なのだ。
K氏の記憶にある本は、おそらく『回天艦長甲賀源吾伝』のことではないかと思う。
確かに金文字の立派な装丁で、その中の一章に、矢田堀の生涯が記されている。
K氏のご自宅で消失したという写真も掲載されている。上の写真がそれだ。
沼津市明治史料館では、そこから複写して展示していたのだった。

海軍総裁だった人だけに、そのほか徳川実紀など、いろいろな資料に、ぽつりぽつりと名前が登場する。
防衛研究所の方が、古い雑誌の記事をコピーしてくださったこともあった。
意外なことに、河合継之助の日記に、矢田堀と会った時のことが、けっこう詳しく書かれている。平凡社東洋文庫に納められている日記だ。
そういった長短さまざまな記録を、つなげ合わせていくうちに、矢田堀の生涯や人物像がおぼろげながら浮かんできた。

私はそれをノンフィクションで発表しようと、1冊分に書き上げたこともある。
でも、やはり小説でという思いから、400字×100枚ほどの小説に書き直して、歴史文学賞に応募した。それは3次選考まで残ったが、結果は敗退。
翌年、別の題材で、ふたたび歴史文学賞に挑戦して受賞した。
でも今になってみれば、あの時、中途半端な作品で受賞しなくて、よかったと思う。

その後も、たまたま初めて出かけた洋学史研究会で、矢田堀の生涯を理解するための重要な情報を得たりと、なおも偶然は続き、史実が明らかになっていった。
鴻鵠の志は何なのか、なぜ歴史に埋もれたか、私なりに理解できた。

そして一昨年、文藝春秋の編集者から歴史小説の書き下ろし依頼をいただいた時、何でも好きな題材をと言われて、迷わず矢田堀を選んだ。
だが、そこからがまた大変だった。
今度は調べすぎて史実に足を取られ、小説にならないのだ。
原稿を持っていっては書き直し、また書き直し。
途中で担当者が変わったこともあって、もう本にできないのではと不安になった。
でも矢田堀景蔵の評価を世に問いたいという一念で、『群青』を完成させた。
100枚だった元の原稿を、600枚に仕上げるのに、1年半を要した。
私としては格別の遅筆だ。でも、それだけの価値はあったと思う。

苦労して書いたものが、小説として優れているかどうかは別問題で、筆がのって、ひと月で書き上げたものの方が、評判がよかったりもする。
それでも私の思いは編集者にも伝わり、いい本を作っていただけた。
手をかけていただいたおかげで、1500円台という破格の値段になった。
装丁は社内でも好評だという。
矢田堀は写真の通りの男前で、彼の雰囲気にふさわしい装丁になった。

なぜ彼が歴史の中に埋もれたのか、鴻鵠の志とは何なのかは、もったいをつけるようで恐縮だが、どうか『群青』を読んでいただきたい。
硬派な歴史小説だけに、今までの作品のように一気読みはできないかもしれないが、幕末好きには充分に読みごたえのある作品であり、読んだ後、矢田堀という人物に関して、きっと心に残るものがあると思う。

【出版社】文藝春秋
【初版発行日】平成20年5月15日
【体裁】四六判上製カバー装、368ページ。
【定価】1600円(税込み)
【ISBNコード】978-4-16-326810-1
時代歴史小説作家・植松三十里先生サイン会
【時代歴史小説作家・植松三十里先生サイン会】
【日時】平成20年6月7日(土)14:00〜15:00
【場所】
歴史時代書房「時代屋」神田小川町店の茶屋
都営新宿線小川町駅 徒歩2分/東京メトロ千代田線新御茶ノ水駅 徒歩2分
【販売書籍】
『群青』『天璋院と和姫』『お龍』『女たちの江戸開城』
【サイン会問合せ】
歴史時代書房「時代屋」神田小川町店
TEL:0120-37-5460
>>> 歴史時代書房「時代屋」のホームページ
※植松三十里さんの『お龍』、『天璋院と和姫』、『大奥開城』(『女たちの江戸開城』を改題して文庫化)は、7月の東京龍馬会集会会場で割引販売いたします。
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投稿者 minagawa : June 1, 2008 01:26 PM

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コメント

初めまして、アメリカ留学のブログを書いてる者です。今後の記事更新の参考にさせてもらいたいと思って見させてもらいましたけど、普通に楽しんじゃいましたw次の記事更新を楽しみにしてます☆応援してますのでポチッとしておきますw頑張って下さいね。

投稿者 アメリカ留学 : June 2, 2008 01:50 PM


7月の東京龍馬会の講演会の講師をつとめていただく植松三十里先生の最新刊『群青』の書評が、時々、新聞などで見かけます。

6月19日付「東京新聞」には、「自著を語る」というコーナーに「群青」の執筆動機などが書かれているそうです。

記事は、植松先生のホームページ内の下記に掲載されています。よかったらお読みください。

http://30miles.moo.jp/book/10.html

投稿者 みながわ : June 21, 2008 11:33 AM

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